他人の顔色を過剰にうかがってしまう本当の理由

今週は、「怒り」と「拒絶」が、私たちを、支配・コントロールする仕組みについて、私見たっぷりにお話したいと思います。

自分がわからない

ロシアのウクライナ侵攻が始まってから、
ずっと、考えていたことがあります。

一つは、
「なぜ、たった一人の独裁者に、
たくさんの人を支配する力があるのか?」

もう一つは、

「今、私にできることは何か?」

です。

そうしたら、ふと、
私の個人セッションに来てくれた
ある男性のことを思い出しました。

彼は、

「私は現在、38歳の会社員で、
妻と子供が1人います。

16年間、一つの会社に勤めており、
役職も上がっていますが、

全くやりたくない事に多くの時間と
労力を割かねばならず、
年々、閉塞感が強くなってきました。」

という、悩みを抱えていました。

ヒアリングで詳しく話を伺うと、
彼は、”閉塞感”という言葉を、
繰り返し何度も、口にしました。

[毎日、やりたくない仕事をして
無駄な時間を過ごしているように感じる]

[何もしたくなくて、これがしたいという
湧き上がってくる感情がない]

[自分がわからなくなってしまった]

と、言うのです。

母親の拒絶

そうした彼の閉塞感がどこから、
来ているのか、深く掘り下げていくと

幼い頃の、”母親との関係”に
原因があることがわかりました。

母親は、彼に、医者になることを
期待していました。

だから、中学の頃から、進学校に入って、
いずれは、大学で、医学部に
入るように、言いました。

けれど、彼はそうした母親の
コントロールに強く、反発しました。

「うるせえ、クソばばあ!」

すると、母親は、とてもガッカリして、
「あんな風になったら絶対にダメよ」
と、彼の弟に言い放ったというのです。

そのとき、彼は、
母親から見捨てられたように感じて、
強いショックを受けました。

その瞬間に、心が冷たく、
凍りついたように感じたそうです。

それ以来、彼は、
「期待に応えないと見捨てられる」
と、強く恐れるようになりました。

幼い子供にとって、
”親からの拒絶”は、
命(サバイバル=生存)に関わる、
深刻な問題です。

幼い子供は、養育者の存在なしに、
一人で生きていくことができません。

だから、幼い頃の親の拒絶や、
ネグレクト(無関心、育児放棄)が、
大きなトラウマになってしまうことがよくある。

そうした幼少期のトラウマが、
その後の、人生に大きな影響を
与えることになるのです。

サバイバル(生存)のための戦略

彼は、母親の拒絶があってから、
他人の顔色を、過剰に伺うようになりました。

[相手が何がしてほしくて、
何をしてほしくないのか]

[自分に何を期待しているのか]

他人の顔色を伺うことで見極める
という、習慣を身につけました。

周りの大人たちに
”忖度”(他人の気持をおしはかる)して
相手の、期待に応える行動をしておけば、

相手を不機嫌にさせたり、
怒り向けられることはありません。

そうすれば、あのときみたいに
見捨てられて、つらい思いをしなくてすむ。

[他人の顔色を過剰に伺うことで
拒絶や、怒りを避けようとする]

それが幼い彼が、身につけた
”サバイバル(生存)のための戦略”
だったのです。

「条件付け」はどのようにできるのか?

トラウマ研究の世界的第一人者で、
米ボストン大学医学部精神科教授の
ベッセル・ヴァン・デア・コーク博士は

著書の
『身体はトラウマを記録する
ー脳・心・体のつながりと回復のための手法』
の中で、こんな風に言っています。

「虐待やネグレクトを受けた子供は、
相手の声や表情の変化に、非常に敏感なことが多く、

それを脅威と捉えて、反応する傾向がある。

少しでも、怒った人の顔を見ると、
過剰に自己防衛したり、おびえたりする。」

私のクライアントの男性も、
相手の表情に、過剰に反応する傾向があり

その無意識のパターンを
大人になった現在も、持ち続けていました。

会社では、上司や先輩の顔色を伺って、
彼らが何をしてほしくて、

何をしてほしくないのか、
自分に何を期待し、求めているのか、

自ら、”忖度”をして、
他人の期待に応える行動を無意識にしてしまう。

そうやって、他人の期待(外側の声)に応えて
生きているうちに、
[自分がわからなくなってしまった]。

その結果、
[全くやりたくない事に多くの時間と
労力を割かねばならず、
年々、閉塞感が強くなっていった]のです。

そうした彼の、
「他人の期待に応えて生きる」
という、”条件付け”(無意識のパターン)は、

子供の頃の、
「期待に応えないと見捨てられる」
という、親との関係によるトラウマから
来ていることがわかったのです。

頭が真っ白にフリーズする原因

私の、個人セッションや
セミナーを受講する人の中には、

[他人の顔色を過剰に気にする]

傾向を持っている人が少なくありません。

中には、他者から、
”怒りの感情”を向けられることが

恐ろしくて、過剰に相手の顔色を
伺ってしまう人もいます。

そうした人は、人から、怒りやイライラの
感情を向けられると、

頭が真っ白になって、
フリーズしてしまうことよくある。

そんな風にテンパってしまうと
いつもなら、簡単にできることが
できなくなって、ミスを連発してしなう。

だから、余計に相手を怒らせたり、
イライラさせて、もっと、テンパってしまう、
というループにハマる・・・。

だから、相手を怒らせないように、
(感情的な対立が起きないように)

過剰に顔色を伺って、”相手の期待に応える”
(自分のやりたいこと、本心を押し殺す)
ということを、ついしてしまう。

そうやって、無意識のうちに、
他人の怒りに、コントロール、
支配されてしまうのです。

そうした怒りを過剰に恐れる傾向が、
どこから、来ているのか、

深く、掘り下げていくと、
やはり、幼少期の親との関係の
トラウマが原因になっていることが
少なくありません。

なぜ他人の怒りが怖いのか?

また、
私たちが、怒りを過剰に恐れたり、
怒りを向けられると体が硬直したりするのは

もともと人間の身体(神経系)に備わっている
「防衛本能」の側面もあるでしょう。

私たちの祖先の人類は、
[捕食動物に、食べられて
しまうかもしれない]
サバイバルの問題を持っていました。

だから、捕食動物が、攻撃態勢のときに出す
「唸り声」(怒っている声)や、

「犬歯を剥き出しにした顔」(怒っている顔)
に過剰に敏感になる必要があったのです。

捕食者が目の前に現れてから、
「認知」
(パーセプション=理解、判断、論理)
を使って、どう危機に対処するのか、
決めていたら、間に合いません。

考えるよりも早く、
身体が動く(反応)する必要があるんです。

だから、私たちの自律神経系(交感神経)には、
「闘争・逃走反応」(戦うか逃げるか反応)
が備わっています。

ニューロセプション

アメリカの神経科学の専門家で、
「ポリヴェーガル理論」の提唱者である、
ステファン・W.ポージェス博士は、

「神経系」(ニューロン)が危機を感知し
自動で身体の生化学的な状態を変化させる

防衛機能のことを「ニューロセプション」
と呼んでいます。

例えば、今、あなたがこのメールを自分の
部屋で読んでいるとして、
そこに、突然、泥棒が入ってきたとしましょう。

するともう、のんきにメールなんて
読んでいる場合ではありません。

泥棒を「認知」(パーセプション)するより
早く、自動的に「ニューロセプション」が

発動し、あなたの身体の指揮権は、即座に
自律神経系の「交感神経」に移行、

”総員、第一種戦闘配置”
(闘争・逃走反応)の命令が、
全身に、通達されます。

これがエヴァなら、例のあのBGMが鳴り始めます。
https://youtu.be/mD6ag0sRcUw

すると、心拍数が、急激に、増加し、
いつもよりも、身体が俊敏に動くようになって
”火事場の馬鹿力”が使えるようになる。

そうやって、考えるよりも早く、
泥棒と戦うか、逃げるか、
即断し、即行動に、移すことができる。

ところがもし、部屋に入ってきたのが、
飢えたライオンだったら、どうでしょう。

ライオンを「パーセプション」するより早く
自動的に「ニューロセプション」が発動し、

あなたの身体の主導権は、即座に、
自律神経系の「副交感神経」
(背側迷走神経複合体)に移行します。

すると、ヘビに睨まれたカエルのように、
身体が硬直し、フリーズ
(凍りつき反応、シャットダウン)
してしまうでしょう。

場合によっては、気絶したり、
失禁したりするかもしれません。

捕食動物は、逃げる獲物に興奮し、
動かない獲物に興味を失うという
習性があります。

だから、シャットダウンすれば
(凍りついたように動かなくなれば)
生き残る可能性が、僅かに上がります。

つまり、
私たちが怒りの感情を恐れ、怒りを避けようと
身体が無意識に反応
(ニューロセプション)するのは、
”生存のための本能である”ということです。

だから他人の怒った顔や、怒鳴り声を、
身体(自立神経)が、命の危機と捉え、
反応してしまう。

生存の危機

また、私たちが他人からの拒絶を恐れる理由も
生存のための本能と、関わりがあるでしょう。

人間は、「社会的な動物」です。

私という個人は、社会という人間の群れの、
成員であって、決して、一人で
生きていくことは、できません。

だから、「仲間はずれ」「村八分」
(他人から拒絶、見捨てられる)
は、生存の危機を意味するのです。

つまり、私たちが、
他人から怒りを向けられたり、
他人から拒絶することを、恐れるのは、
とても、自然なことでなのです。

「怒りと拒絶」は、
生存(サバイバル)と直結するのですから。

トラウマ(心的外傷) の影響

しかし、幼少期に、親や養育者から、
拒絶や、ネグレクトを受けたり、

日常的に、怒りを向けられて育った人は、
それらが「トラウマ」(心的外傷)
になっているケースが、ある。

そうした人は、大人になってからも、
他人の怒りや拒絶に“敏感に反応”してしまう。

過剰なぐらいに、相手の顔色を伺って、
相手の期待に応える行動を無意識にやっている。

そうすれば、
何よりも、恐ろしい、他人の怒りと拒絶を
回避することができるから。

つまり、幼い頃に身につけた
”サバイバル(生存)のための戦略”を、
無意識に、ずっとリピートしているということ。

けれど、そうしたサバイバルのための戦略には
大きな代償が伴います。

他人の期待に応えるために、
自分の感情や本心を押し殺して

[する必要があること](Need to)
[すべきこと](Ought to)
[しなければならないこと](Have got to)

をしているうちに、
自分が何が好きで、何をやりたいのか、
さっぱり、わからなくなってしまう・・・。

[やりたいことがわからない]

という悩みを持って、
私の個人セッションやセミナーに来る
人たちの中には、

幼少期のトラウマの影響で

[他人の、怒りや拒絶を過剰に恐れ、
無意識に、コントロール・支配されてしまう]

という、傾向、テーマを持っている人が、
少なくないことに、気づきました。

クライアントの男性も そうした一人です。

だから、そうした人たちが、

===========================
やりたいこと、好きなことを見つけて
自分の価値観(人生の目的)を生きる
ためには、

他人の怒りと拒絶に支配・コントロール
されてしまう”条件付け”(無意識のパターン)
を解消することがとても大切
===========================

なんです。

怒り・拒絶への恐れを克服する

そのために、有効な方法が
ディマティーニ・メソッドです。

[他人から、怒りを向けられることが、
自分自身に、具体的にどのように
役立ち、メリットになるか?]

[他人から、拒絶されることが、
自分自身に、具体的にどのように
役立ち、メリットになるか?]

を、どんどん見つけていきます。

[自分が人に怒りを向けることが
相手に、具体的にどのように
役立ち、メリットになるか?]

[自分が相手を拒絶することが、
相手に、具体的にどのように
役立ち、メリットになるか?]

も、見ていくと、さらにいいでしょう。

[人から拒絶された瞬間に、同時(共時的)に
誰が自分を受容していたか?]

も、見ていくと、なおいいでしょう。

人は、自分にたくさんメリットがあると
わかっている(認識している)ことを、
恐れたりしません。

例えば、”反社の人”の、恫喝に、
30分間、耐え凌いだら、100万円もらえる
というYouTubeの企画があったとしましょう。

私、それに喜んで参加すると思います。

私、ニコニコしながら、
ヤ●ザの恫喝を聞くことができると思うんです。

「お願い! もっと僕を恫喝してアニキ!」
って 笑

まあ、これは、極端な例え話ですけど、
人から怒りを向けられることや、

拒絶されることに、明確なメリットを
見つけることができれば、
それらを過剰に恐れなくなるということです。

すると、もう、人を怒らせないようにしたり、
人から拒絶されないようにするために、

相手の期待に応えて、自分のやりたいこと、
本心を押し殺す必要がなくなります。

つまり、
もう、怒りや、拒絶に、支配・コントロール
されなくなるということ。

他人に明け渡していた、力を自分に取り戻し
自らの人生の主導権を取り戻すことができる。

怒りと、拒絶への恐れを、克服することで、
自由になることができるということです。

なぜ、人は独裁者の兵隊になるのか?

独裁者や政治家、宗教指導者といった権力者は
怒りや、拒絶を使えば、人を自分たちに

服従させて、支配・コントロールできることを
熟知しています。

もっと、身近なところでは、
あなたの会社の社長や上司も、そのことを
よく理解している。

プーチンが、核を使うぞと、脅すのも、
北朝鮮が、日本海にミサイルを発射するのも

あなたの会社の社長や上司が
大きな声で怒鳴るのも基本、目的は同じです。

彼らは、生存本能と、強く結びついている、
怒り(=恐怖)を使って、
私たちを支配・コントロールしようとしている。

だから、私たちは、そうした
条件付け(コンロトール)によって、
独裁者(=権威)の兵隊になってしまう。

反逆者

インドの神秘家で覚者の、
OSHO(バグワン・シュリ・ラジニーシ)は

自らの内側の光に従って生きる人
(=条件付けられた
ロボットのようには生きない人)を、
「反逆者」と呼びました。

「反逆者」とは、外側(=権威)の声である

[する必要がある](Need to)
[すべき](Ought to)
[しなければならない](Have got to)

という自分を縛り付ける「鎖」(条件付け)を
打ち砕いて、内側の声に従って生きる人のこと。

「反逆」と言っても、誰かと、争ったり、
戦ったりするわけではありません。

他人に従わずに、
自らの運命のマスター(支配者)
として生きる人が、
「反逆者」だと、言うのです。

ここに、
「今、私にできることは何か?」
という問いへの
私なりの答えがあることに気づきました。

私たちひとり一人が、内なる声に従って
自らの人生のマスター(支配者)
として生きること、それが反逆、革命なんです。

この反逆には、
ミサイルも、戦車も必要ありません。

今こそ、内なる声に従って、
自分の人生の目的を、生きよう。

他人に明け渡してしまった、力を取り戻そう。

そういう、方法で、
世界を変えることができるって、
私、本気で信じているんです。

「内側の声が、外側の声を凌ぐほどに、
大きくなったとき、あなたは、
自らの人生のマスター(支配者)となる」
ーDr.ジョン・ディマティーニ

「献身的な少数の人たちだけでは、
世界を変えられないと、信じないで。

実際に、世界を変えてきたのは、
そういう少数の人たちなのだから。 」
ーマーガレット・ミード
(アメリカの文化人類学者)

飛田貴生

参考文献・引用

『身体はトラウマを記録する ー脳・心・体のつながりと回復のための手法』
(ベッセル・ヴァン・デア・コーク著)

『ポリヴェーガル理論入門ー心身に変革をおこす「安全」と「絆」』
(ステファン・W.ポージェス著)

Osho Zen Tarot

OSHOインターナショナル・ファウンデーション「途切れることのない反逆」

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