映画『トラウマの英知』(The Wisdom of Trauma)感想(ネタバレ)

心の病の「エピデミック」

”トラウマ”についてのドキュメンタリー映画『トラウマの英知』 (The Wisdom of Trauma)を見ました。

この映画は、「トラウマ」と「依存症」の世界的権威でホロコースト(ナチス・ドイツによるユダヤ人大虐殺)の生存者でもあるカナダのガボール・マテ医師を追った、ホリスティック医療のドキュメンタリーです。

私、この映画に、どハマりして、思わず、3回も見ちゃいました。

かなり、気が早いけれど、2022年の、私のBEST BUY(一番買ってよかったもの)に決定です!

マテ先生は、30年以上、医療に携わる中で、心の苦しみや、精神疾患、身体の病気に共通しているのは、”トラウマ”であると、気づいたそう。

今、北米では、「不安神経症」に苦しむ若者が急増していて、「ADHD」(注意欠如・多動症)と診断される子供も、すごく増えているんですって。

あと、「うつ病」で自殺する若者や、「依存症」で苦しむ、若者も、すごく増えているそうなんです。

北米の若者の20%以上(5人に1人)が、「不安神経症」と診断される可能性があると、ある研究でわかったといいます。

マテ先生は、これを、「エピデミック」(特定の疾病の、大規模な蔓延)だと、言っています。

つまり、コロナウイルスが感染拡大するみたいに、心の病が、今、急速に北米で広がっているということ。

で、そうした心の苦しみには、必ずと言っていいほど、”トラウマが関係している”と、マテ先生は、言います。

実は、この話、日本人の私たちにも、対岸の火事ではありません。

だって、日本の若者(20〜39歳)の死因の第1位は、「自殺」だから。(「厚生労働省発表 最新データ」)

あと、日本で「精神疾患」のある人は、約419.3万人もいるし(厚労省2017年調査)、2021年の全国の自殺者数は、20,984人です。(警察庁発表)

マテ先生の言葉を借りれば、こうした日本の多くの人たちの心の苦しみにも、必ずと言っていいほど、トラウマが関係していることになる。

私も、心理セラピストだから、これは、本当にそう思う。

人間の「3つの苦しみ」

私の個人セッションには、いろんな悩みを持った人たちが、ディマティーニ・メソッドを受けにやってきます。

[とにかく、生きづらい、人生が行き詰まっているように感じる]

[彼への執着と依存心が強くて見捨てられることが怖くて仕方ない]

[自分に自信がまったく持てなくて人の顔色ばかり伺っている]

[心の中の、”自分を否定する言葉”を止めることができない。]

といったように。

そうした人たちには、共通点があります。

それは、

なぜ、苦しいのか、その理由、原因が自分では、わからないこと。

私たちが体験する苦しみは、大きく分けて、3つの種類があります。

1つ目は、「欲しいものが手に入らない」という苦しみ。

例えば、

[結婚したいのに、結婚できない]
[子供が欲しいのに授からない]
[志望の大学に入れない]

といったこと。

2つ目は、「欲しくないものを持っていて、それを無くせない」という苦しみ。

例えば、

[子供の病気が治らない]
[DV夫と別れることができない]
[親の借金を返さないといけない]

といったこと。

そして、3つ目が、「自分の苦しみの原因がわからない」という苦しみ。

3つ目の苦しみが、ある意味いちばん厄介です。

なぜ、苦しいのか原因がわからなければ、どうしたら、解決できるのかもわかりません。

だから、この苦しみを持つ人は、何年も、何十年も、ずっと、苦しみ続けることになる・・・。

「心の苦しみ」と「トラウマ」の関係

私の個人セッションでは、こうした原因のわからない苦しみが

どこからやって来ているのか、探っていきます。

すると、必ずと言っていいほど、”幼少期のトラウマ”が原因になっていることがわかる。

ほとんどが、親との関係によって、「私は、愛されていない」と感じたことで、できたトラウマです。

私も、14年以上、心理セラピーに携わる中で、多くの人の、心の苦しみに共通しているのは、”トラウマ”であると、気づいた。

「トラウマとは自分自身から分離することです。

なぜ、そうするのか? 自分自身でいることが、つらすぎるからです。 」

と、マテ先生は、言います。

過去に、とてもつらい体験をした人は、自分の感情をどうしたらいいかわからないから、そうしたつらい感情を感じないように、スイッチをオフにすることで、自分を守るのです。

これは、「分離」(アイソレーション)や、「シャットダウン」「凍りつき反応」と呼ばれる、心の防衛機能です。

そうやって、心を麻痺させれば、つらくて仕方なかった過去の体験を、”なかったこと”にすることができる。

だから、多くの人が、自分がトラウマを持っていることに気づいていない。

実は、マテ先生自身がそうだったといいます。

「自分がトラウマを抱えていると30代から40代で気づきました。

こんなにつらいのは、おかしい。何か理由があるはずだと思いました。」

と映画の中で語っている。

マテ先生のように、自分がトラウマを持っていることに気づいていなくても、過去のつらい痛み自体が消えてなくなるわけではありません。

表面的にはなかったことにしても古傷がズキズキと痛んで、人生が苦しくて仕方ない。

そうやって、”自分の苦しみの原因がわからないという苦しみ”が出来上がるのです。

自分が悪い人だとはもう思わない

映画の中にも、そうした人たちが、たくさん登場します。

[殺人罪で服役中の男性]
[薬物依存症の男性]
[セックスに依存する女性]
[うつ病の男性]
[ホームレスの女性]
[前立腺がんの男性]

など。

そうした人たちは、

[私は、欠陥品だ]
[私は、間違っている]
[私は、悪い人間だ]

と、強く自分を恥じています。

けれど、彼らは、マテ先生の本を読んだり、話を聞くうちに

「依存症」や「暴力的な行為」
「うつ病などの精神疾患」
「がんなどの病気」の原因が、

すべて、子供時代のトラウマから来ていることに、気づきます。

そして、自分も、親も、誰も、悪くなかったことに気が付くのです。

マテ先生に出会った人たちは、口を揃えて、こう言います。

「自分が悪い人だとはもう思わない。」
「前より少し自信を持てるように なっていると感じます。」

と・・・。

そうした人たちは、たとえ、まだ薬物を接種していたとしても、内側から何かが変わり始めているのだそう。

そして、自分を恥じる気持ちも、徐々に消えていくといいます。

なぜ私は「乾癬」と「リウマチ」になったのか?

実は、私自身も、まさに、そういう体験をしました。

私には「乾癬」(かんせん)という、「特定疾患」(難病)に指定されている皮膚病と「関節リウマチ」(自己免疫疾患)の持病があります。

「乾癬」は、小学5年のときに発症し、「関節リウマチ」は28歳のときに発症しました。

そして、この2つの病気によって私は、肢体不自由の身体障害者になりました。

どうして私が、こうした難病になったのか、今までずっとその理由がわからなかったんです。

だから、

[病気になった責任は、自分にある]
[自分は、何かが間違っている]
[生き方や、考え方に問題がある]

と病気になった自分をずっと恥じていました。

けれど、『トラウマの英知』を見て、マテさんの著書『身体が「ノー」と言うときー抑圧された感情の代価』を読んだことで、長年、謎だった、私が病気になった理由がハッキリとわかったんです。

映画を見ていて気づいたんですけど、私自身は、幼少期に、大きなトラウマを体験していません。

幼い頃に、性的虐待を受けたことも、ネグレクト(養育放棄)をされたことも、親との死別も、暴力も、親の離婚も、経験していません。

それどころか、両親や親戚、祖父母に、とても愛されて育ちました。

でも、なぜか、私の中に、とても大きなトラウマがあるのがわかる。

「これは、誰のトラウマなのだろうか?」

そう自問して、すぐに答えがわかりました。

この痛みは、私の母のものでした。

うちの母は、「父親から愛されなかった」というとても大きな痛みを持っています。

「私は親から何かしてもらった記憶が全くない」が口癖の母は、中学を卒業すると、”口減らし”のために長野の実家を離れ、神奈川の会社に、集団就職させられました。

すぐ下の二人の弟は、大学に行かせてもらって、

一人は博士(ドクター)になり、もう一人は、一級建築士になったのに母は、高校にさえ行かせてもらえなった。

母は、就職してから、父親(私の祖父)が亡くなるまで、

半世紀以上も、ずっと親に仕送りをしていました。

そうすることで、幼い頃にもらえなかった父親の愛情と、関心を手に入れようとしていたのでしょう。

以前に母は、「じいさん(お父さん)は、コタツの中で、私の仕送りの封筒を、握りしめながら、死んでいたんだって。

亡くなる前に、私がいちばん親孝行だったって、じいさんは、言っていたんだって。」

と、私に、話しました。

母の「私は、お父さんから愛されなかった」という、痛みは、とてつもなく、大きい。

その痛みが、私の中にあるのが、わかるんです。

私の、激しく変形した指の骨を見ると、どれだけ、母の、痛みが大きかったかがわかる。

私の中に、母の痛みがあるのがわかる。

これを、「世代間連鎖」と言います。

「トラウマは、世代を超えて引き継がれる」と、マテ先生は言います。

かつて、母のお父さん(私の祖父)も、これと同じ、痛みを持っていたのでしょう。

だから、母を愛していなかったわけではなく、自分も親から愛されなかったという痛みを持っていたから、自分の娘とどう接したらいいかどう愛したらいいのか、そのやり方がわからなかったのです。

そうやって、親から子へ、子から、孫へと、「私は、愛されていない」という痛みが、世代を超えて、引き継がれ、今、現役の世代として、私が、その大きなトラウマを持っている。

それが、「乾癬」と「関節リウマチ」という、症状となって、現れていた。

「ああそうか、私が間違っていたわけではなかったんだ。

私の責任ではなかったんだ。

母や、祖父が悪かったわけでもなかったんだ。」

そのことに気づいたら、私の中にずっとあった自分を恥じる気持ちがスッと消えていきました。

トラウマへの理解

マテ先生は、映画の後半で、こう話しています。

「トラウマが要因の学習障害、メンタルヘルスの問題のある子供がたくさんいます。

でも教師はトラウマに関する教育もないまま、情報不足の中で働いています。

刑事司法制度は、トラウマへの理解がなく、トラウマの概念すら認識していません。

それどころかトラウマを深くするような方針を作ることがよくあります。

このような施設はトラウマに関する理解と情報をしっかりと得る必要があります。」

と。

私たちは、今まで、トラウマについて、まったく、学んできませんでした。

だから、自分に自信を持てなかったり、自分の子供を愛せなかったり、「うつ病」や「統合失調症」などの精神疾患や
「がん」や「自己免疫疾患」などの、病気・症状があったり、

自分の子供が発達障害であったり、アルコールや、薬物、ギャンブル、買い物、セックス、仕事などの、依存症があったりする自分のことを、ずっと、欠陥のある、間違った、悪い人間だと信じて生きてきた。

けれど、それは、まったく、本当ではなかった。

ただ、自分の中に、誰のものでもない、トラウマがあっただけなんです。

マテさんと出会ったことで、そのことに気づいて人生が大きく変わった人たちがたくさんいるそうです。

だから、映画『トラウマの英知』(The Wisdom of Trauma)は

”自分の苦しみの原因がわからないという苦しみ”を持っている人にこそ見てほしい。

それと、医療や、教育、セラピーに携わる人たちにも、ぜひ、見てもらいたい。

マテ先生は、

「トラウマへの理解をベースにした、 医療や教育、セラピーが必要だ」

と、映画の最後で語っています。

心の病、心の苦しみが蔓延している、「エピデミック」の今こそ、”トラウマへの理解”が強く、求められているように感じます。

「トラウマの英知」の視聴方法

という、わけで、2022年の私のBEST BUYに決まった、映画『トラウマの英知』を 激しくオススメします!

もちろん、誰にでも役立つ 映画ではないと思うけれど、「この映画が役立つ人」「この映画に救われる人」が、必ずいるはずと思って、 この記事を書きました。

映画は、オンラインの動画配信なので、ネットにつながった、スマホやPCがあれば、誰でも、視聴できます。

料金は、ドネイト(寄付)制です。1ドル以上の寄付で、映画を視聴できます。

「日本語字幕」もあるので、英語がわからなくても、大丈夫。

公式サイトは、英語なので、かんたんな視聴の手順書を作りました。

ぜひ、コチラを参考にしてください。

*視聴方法の、個別のサポートはできませんので、あらかじめ、ご了承ください。

映画の予告編も、ぜひ、見てください。

*歯車のマークをクリックすると、「日本語字幕」を選択できます。

それと、 マテ先生の著書『身体が「ノー」と言うときー抑圧された感情の代価』もオススメです。

ただ、この本は、医学的な内容も多くて、ちょっと読みにくいので、まずは、映画を見てもらうがいいと思います。

今日は、ちょっと長い記事になってしまいました。

最後までお読みいただきありがとうございます。

飛田 貴生

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